馬の頭の走り書き

書いているケモノ小説(BL含む)のこと。あるいは、たまに読書日記とかプログラミングとか。

森奈津子『からくりアンモラル』

 だいたい一年のあいだに見初めて買って、そのまま本棚の肥やしにしてたものをやっと読んだ。
 ちょうど『MOUSE』を読み終えたところで『MOUSE』読後のこの心の空白を埋めるには同じようなアンモラルな本がよかろうと考えた故の選択は、どうやら正しかったようではあるけど、埋めたはいいが別の空白ができるという事態が発生してしまった。
 どうしよう……。

あらまし

 性愛SF短編集。
 SF短編集といっても、難しいことは書かれていないので、理系用語がたくさんでてきて眠くなるからSFは読めない、なんていう人でもだいじょうぶである。そもそも理系用語がたくさんでてきて難しいSFは、ガチで考証しにかかるハードSFか、とりあえず散りばめちゃった系のどちらかで、後者はとばしとばし読んだら意外と読めるものである。前者はお察し(例:グレッグ・イーガンの『ディアスポラ』)。
 性の目覚めや、性に関わるアンドロイドに纏わるお話が収められている。
 たとえば『あたしを愛したあたしたち』は、十二歳の少女である主人公が、未来から来た十五歳と十九歳の主人公から性愛とタイムトラベルの方法を伝授される、というお話。
 また別の話で、『レプリカント色ざんげ』は、とある惑星国家の占い師に贈られた男性型セクサロイドが辿った百年あまりの人生を語るお話。
 それ以外に、『いなくなった猫の話』は、ある街のバーの女将が、訪ずれた猫のハイブリッド(人と動物の遺伝子を合成してつくった生き物)の客に、若かったころ育てた三毛の猫のハイブリッドのことを話す、というお話。エロはない。

感想

 いきなりどエロである。いっぱつめの『からくりアンモラル』から少女が性に目覚め、ロボットの手を股のあいだに導く。
 でもそれだけじゃない。
 この短編はアイザック・アシモフの『ロビィ』だ。少女が性に目覚めたりする部分は誤差のようなものだ。疎んでいた姉のロボットを、いつのまにか愛するようになる、これは恋愛小説とみることもできる。

 そんな、単に性愛を扱うだけではなく、むしろ性愛の裏にある愛情を扱う短編小説集だった。
 読後に「あっ、すごいな」と思わされた。
 それは性愛SFといいながら、さまざまなものを扱っている。初潮を迎えて「男性の欲望を向けられる」ようになることへの絶望や、成長速度の違う種族との関係の変化、一緒だった心が分かれていくこと、ある王国占い師の愛憎、ジゴロ親子の真実、などなど。エロ小説と言ってはだめだ。奥深いものを扱うこの小説たちをそんな名で呼んではいけないと、読みすすめるにつれて、思った。

 さて、中に少年が出てくる小説は三編あって、『愛玩少年』『一卵性』『罪と罰、そして』である。どれもシーンは少ないものの(『愛玩少年』を除く)、シチュエーション的にはアツいものがあるので、そういうのが好きなひとにもオススメできる。
 なにより、文章が純粋で、それでいてとても官能的だ。こんなに濃くてこんなに清潔な性愛描写ははじめてみた。「エロ描写」ではなにか違うので、そう呼ぶことにする。濃いけど簡素で、表現も巧みで的確だ。「エロ小説」を書くぼくは、この要素を取り込んでみたいと思わされた。エロティックでいて、直接的な表現をしかし遠回しに使って、まさに性愛描写の手練手管といいたいところ。

 ぼくは特に『からくりアンモラル』と、『いなくなった猫の話』、あとジゴロ父子の物語『ナルキッソスの娘』が好きだった。『いなくなった猫の話』はぐっとくるものがあるし、『ナルキッソスの娘』はぐっとくるものを通りすぎていっしょに笑ってしまった。

 ショタがほとんどでてこないし、少女がほとんどだけれど、なかなか良い刺激になると思うので、ぜひお薦めしたい一冊である。

 あ、あと、『いなくなった猫の話』はエロはないけれど、猫獣人が出てくる話です。