馬の頭の走り書き

書いているケモノ小説(BL含む)のこと。あるいは、たまに読書日記とかプログラミングとか。

円城塔『プロローグ』

 読み終わってから感想を書くまでに二週間経ってしまった。

 われらが円城塔によるドトール放浪記旅行記日記愚痴集卒論私小説
 円城塔の本は、円城塔本人が告知してくれないので、基本的にはAmazonあたりで定期的に「円城塔」で調べて新作の刊行を知ることになる。そして、また一月末に本が出るようだ。カート・ヴォネガットの講演の翻訳だそう。ほしいのう。買うかのう。逸れた。『プロローグ』もAmazonで刊行することそのものと、刊行日を知った。2015/12/24。そう信じてたのに……。Amazonの発売日と、書店での発売日は異なるようで、12/24に買いにいったとき、「12/24以前に(二日くらい前に)書店で並んでいた」との情報を得た。ヴィックらこいた。その情報は買う前にほしかった。だから次は、早めに書店での発売日をチェックすることにしようと思った。
 待っていろ、三省堂!!

あらまし

 あらましっていうかなんていうか、円城塔私小説である。円城塔が世界を飛び回りながら小説を書くことについて思索しつつ、さまざまな実験を試みる足跡。でも、私小説ってなんだっけ。

作者が直接に経験したことがらを素材にして書かれた小説 --- 『私小説』, Wikipedia

 ふむふむ。
 たしかに円城塔が喫茶店を巡り、世界を巡り、史跡を巡り、思索を巡らしているところなんかは、なかなか私小説である。自身の経験や行為を登場人物に託して、まるでほんとうにあったことであるかのように日々のさまざまが綴られる。
 曰く、出版業界は現状f**kであり、メタなんてものはないのであり、日本語はMeCab氏によって電子データ上の恩恵を得られるのであり、書籍はその更新についてコストを払うものになるのであり——云々。  要するに私小説である。

感想

 円城さんっていろんなところにいっているのね。
 話としては、円城塔(の役を負った雀部)が展開するお話が、そもそもお話ってなによというところから定義しつつ、雀部(≒円城塔)が登場人物を設定し、あとは野となれ山となれ、とはいいつつ円城塔の代理人としていろいろやっていきつつ、なんだか幻想小説のような部分ももちつつ、最後にはエモく人類に何かがあったテラへとお話は到達(物理)するのである。
 そして『プロローグ』たるテラから繋がるお話の系譜の遠い先には、『エピローグ』たるお話がまっている。

 そう、タイトルどおり、『プロローグ』(私小説)と『エピローグ』(SF)は繋がっていたんだよ!!

 ΩΩΩ<な、なんだってー!?

 胸の熱くなる私小説であった。
 なにより小説について、計算機寄りの考察がなされていて、いくつもはっとするところがあった。古典文学は、小説は、もっと電子的に触りやすいところに、触りやすいように整形され、置かれるべきである。ぼくもそう思った。オープンソースなソフトウェアはだれでもソースが(小説でいうとオリジナルの電子データが)だれでも触れるようになっているのだから、そうあるべきだと。そうあることで、テキスト解析がしやすい状況になり、そしてそれはたとえばMeCab氏なんかの辞書の自動作成のような、機械に任せたいような作業を機械に任せる研究の足掛りになったりするのだ。  なのに今の出版業界はなんだ、なんでだ、と続く。

 テキストデータが根本にあって、そこから印刷用のデータがつくられたり、再印刷されたり、電子書籍データがつくられたりするんだと思ってた。というか、普通に考えて、そうあるべきだ。だけど実状はてんで異なるらしい。
 ソースコード(著者の原本)と、検証用のデータ(ゲラ、だいたい紙、ときどきPDF)と、本番環境(紙、単行本、文庫、電子書籍などなど)が異なるって、ちょっとなにをいっているのかわからない。ていうかアブない。アブない。
 でも、そうらしい。

 そういう慣習を皮肉ったり、時に吠えていたり、日記というよりもはや愚痴大会のようなところがあった。

 そして、そういう照れを隠すかのように、幻想的なストーリーが進んでいくのだ。円城塔私小説を書いたのに、そういう事情や内部がコンピュータ用語や専門的な考察にまみれていたりして、合わない人は合わないだろうなあ、と思う。
 だけど、円城塔曰く「新聞記者の人が感想を寄せてくれて、『プロローグ』読めないという人や、『エピローグ』読めないという人がいた」ということだから、不思議だ。あまり詳しくない人だろうから、『プロローグ』も『エピローグ』も、つらいはつらいはずだ。
 その間を隔てるものはなんなのだろう。
 いまごろそういうことを考えてても、おかしくはないな、と思う。

 さいごに、githubリポジトリの停止、ご愁傷さまです(意味深な笑み)。

サイン会に行きました

 代官山の蔦屋書店のサイン会に行った。
 緊張するので、直前でビールを飲んで待ってた。