酉島伝法『皆勤の徒』
単行本(ソフトカバー)が出たときからずっと気になっていた本を、文庫化に際し、やっと手にして読んだ。後悔しそうだな、と思いながら諸事情により先送りをしていたところに叩きつけるような猛烈な悔恨を味わっている。
悔しい。色んな意味で。
あらまし
遠い遠いどこかの星。
電化製品や家具や配管やなんやかんや有象無象がひしめき増殖する塵の断崖の側に会社はあった。従業者は不定形の社長に日々散々こき使われくたくたになるまで臓物を骨格を作りつづける。
一体どうしてこんな仕事に。そもそも社長が不定形とは。果たして労災は下りるのだろうか。
感想
創元SF短編賞の受賞時から、ずっと目にして気になっていた社畜SF。
かと思ったら単に社畜SFなだけではまったくなく、日本語を駆使し漢字を際限なく使い倒して語られる世界は異様で異形で、溢れ溢れるセンス・オブ・ワンダーに圧倒されて最後には放心した。日本のSFはここまで来ていたのかと、それなら安泰だね(なのか?)と胸をざわつかせて要チェックリストに酉島伝法の名を刻み込むのだった。
オススメ度は、読まなきゃ損のレベル。
内容については、いいから読めの一言に尽きる。
狐に抓まれたような煙に巻かれたような気持ちですらいる。
グロテスクさと妙な雅さと背景に滲むように、でもしっかりとした骨のある設定とが調和して、というより制御された暴走をして、ここではないどこかのできごとが綴られる。その中で微妙に毛色を違えながら、社畜もの、学園もの、探偵もの、探検ものと話を繋いでいく手法は見事としか言いようがない。
それでいて、中心にはしっかりとSFの骨が貫いている。
『皆勤の徒』はひとつの手法を打ち立てた感がある。
同じようなことをしようとしたら、同じようなことではなく同じことをする羽目になるだろう。
著者は、SFと意識させない語りをしようと言葉遣いその他あれこれに気を配ったんだそうだ。これを考え書き上げた労力に、ただただ感嘆の息を漏らすのみである。
そりゃあ創元SF短編賞も受賞するだろう。
日本SF大賞も受賞するだろう。
なにを食べたらこんなの考えつき、描け、そして書けるのか皆目見当もつかない。
きっと百々似の骨粉蕎麦でも食べて生きてきたんだろう。そうじゃなきゃあ、こんな仮粧は作り上げようのないものな。