馬の頭の走り書き

書いているケモノ小説(BL含む)のこと。あるいは、たまに読書日記とかプログラミングとか。

円城塔『エピローグ』

 読み終わってから感想を書くまでに二週間経ってしまった。

 ついにきました円城塔オリジナル長編。
 発売日に書店に足を運んで震える手で買ったんだっけ。それとも、お仕事があるから土日まで待って神保町で買ったんだっけ。読んでいる間の衝撃のほうが大きくて、買ったときのことを忘れてしまった。
(ちなみに書籍の購入日を見たら複数の本を買ってるので、おそらく後者だったもよう)
(というか『シャッフル航法』の記事に「『エピローグ』買った」って書いてた)

あらまし

 人類は突如オーバー・チューリング・クリーチャ(OTC)の侵略を受け、もといた宇宙を捨ててこの宇宙へと逃げ退いた。軍の〈ごみ拾い〉に所属する朝戸連は相棒の、文字通り人智を越えたロボット、アラクネと共にOTCとの戦いに臨む。  いっぽう、べつの宇宙の刑事クラビトは、複数の宇宙を股に掛ける一件関連性のまったくない、不可思議な連続殺人事件の調査を命じられる。宇宙の起源に迫るほどの入り組んだ理由を持つ痴情のもつれによる殺人、可能宇宙のすべての自分を消すような殺人、ローグライクな宇宙での殺人(@)、などなど。
 OTCとは何なのか。朝戸の持つ能力とは。宇宙はいまどうなっていて、あの女の子はどこにいるのか。そして、神鳴りを纏うおばあちゃんの正体とは。

感想

 初撃(読了直後)の感想がこれ。

 そしてほんと、これに尽きる。

『エピローグ』はそもそもが、読むことと書くことについて考えて書いてきた円城塔だからこそなしえたひとつの到達点だ。
 これまでにも、『これはペンです』とか『松ノ枝の記』とか『AUTOMATICA』とか、書く/読むことに纏わる話は書いてきた円城塔だ。そして、コンピュータエンジニアリング方面や数学方面にも手を出している円城塔だからこその発想がもりだくさん登場する。
 サービスとしての、惑星、宇宙、そして実存。二宇宙間(上?)にあってそれらを結ぶチューリングミシン、そしてそれにより超宇宙的に編み上げられるストーリーライン。鮮かに過ぎる現実宇宙、そこからの退転、という名の媒体の乗り換え。そして話そのものの時間の原動力と、動かしやすさとしてのラブストーリー。それをかき乱し自らの誕生のために利用しようとする、OTCすら越えたクリーチャであるクラビトの妻(離婚成立)。ページで踊り乱れる文字と矢印。
 どれもこれもがダグラス・アダムズばりの超弩級おバカアイデアにして、なかなか的を射ているのがSFごころをくすぐるのである。ストーリーが二転三転を二転三転くり返して、なにが起こっているんだという疑問をむしろ動力として進む(読む)話は、連載ならではの場当たり的な部分もありつつ、最後にすべてを拾い取り込み飛び越えたりしながら成長していく(主語は「お話」)。
 クラビトが最初に調査にいってきた二つの宇宙、アルゴンキンクラスタとウラジミル・アトラクタを行き来するとき、到着する時間と出発する時間の間の関係は知られていないのだという。それってつまり、物語の時間進行(n文字)と現実の時間進行(t秒)の対応関係は知られようがないというのと同じことではないのか。
 そういうことを積んでは崩して描写していって、なんとなくわかっているような顔をして読んでいって、エモーショナルに煽られたあげく最後にはなぜだかしんみりさせられる、良いラブストーリーである。

 それにしても円城さんは、短編を書き、連作の短編は書き、エッセイは書き、詩も書き、他人の小説を書き、プログラムも書き、(自身の)長編も書き、私小説も書いた。手広い。ほんとうに手広いので、あとは『あとがき』とか『遺書』とかなんかを書くんだろうか、と考えなくもない。あ、小説技法本とか、技術書とか、書いてないものまだまだたくさんあった。
 期待してます。
 技術書。
 オライリーあたりで。

 読みながらもTwitterはちょくちょくチェックするわけで、そうするともう既に読み終わった人のコメントなんかがリツイートされてきたりする。
 その中で、映像化の際アラクネの声は攻殻機動隊タチコマの声がいいな、なんて声を見かけた。ぼくは立場が異なる。スペース☆ダンディのQTの声が合うと思う。あの、なんとも言えないキュートな声がいいと思う。いや、「タチコマ、アリだな」なんて思ったんだけども。

サイン本も買いました

 神保町ブックフェスティバルでサイン本は買えなかったけど(目の前でなくなって、愕然とした)、ちゃんとサイン本は手に入れることができました。

 ちなみに、牧野修の『MOUSE』のサイン本も買いました。