馬の頭の走り書き

書いているケモノ小説(BL含む)のこと。あるいは、たまに読書日記とかプログラミングとか。

アレックス・シアラー『あの雲を追いかけて』

 今日読んだ本は、アレックス・シアラー『あの雲を追いかけて』。すごく良い本で、読めてよかった、買ってよかったと思う。


 お話の概要は、以下のような感じ。
 太陽の周りに地球とは比べものにならないほど濃く厚い大気――空が覆い、その空に浮かぶ島々に人々が暮らしている世界。空鯨や空魚が泳ぎまわるこの世界では、水は存在しない。大気中の水分をかき集めて水にするか、放浪の民クラウドハンターたちが雲を狩って得た水以外には。島で普通に暮らす少年クリスチャンは、ある日クラスに転校してきたクラウドハンターの女の子ジェニーンに興味を持ち仲良くなって、週末のクラウドハンティングに連れていってもらえることとなる。


 この著者の本はこれで二冊目だ(正しくは、読んだのが二冊目。積み本として未読のものが別に二冊ある)。前に読んだ本は『青空のむこう』で、これも良い話だった。
 クリスチャンはクラウドハンターのジェニーンに出会い、彼女たちクラウドハンターとの旅や冒険を通して、ときどきは社会や生活の本質を見通したりなんかして、成長していく。最後には別れが待っている。王道の冒険もののようであって、一筋縄ではいかない、不思議な読後感が残った。
 この著者は児童書としては重めの、少々生々しくもある話を書くなあと思う。
『青空のむこう』では事故だったかで死んだ少年が自身の死を受け入れるという話だった。自身がいなくなっても、遺された人は悲しみこそすれども世界は回り続け、遺された人も事実を受け入れ前に進まなければならない、というようなことがメインテーマだったと思う。
『あの雲を追いかけて』は異邦人のであること、彼らと周囲との関わりがテーマだったのかな。入れ墨をいれたり顔に証の傷をつけるが故、いわゆる普通の人と混じって生きていくことができないこと。自由な生き方にもまた代償の伴うこと。そういった現実社会にも存在するような問題が織り込まれている。それらの問題を旅の中で発見し、向き合い、落しどころを探していくクリスチャンの姿を追っていくのは、楽しい。

 世界設定のほうも巧妙で、汚染や争いで荒廃しきった人類が移住してきたこの世界では、島は濃い大気の中に浮かんでいて、高度が下がれば暑くなり、高度が上がれば寒くなる。下に島があればその上は夜となる。濃い大気では体得すれば泳ぐことができる。などなど。島を惑星と捉えると、ある意味で惑星間の冒険をする話ともとることができて、SF的に考えてみると面白い。
 これに関しては次の文章(本文539ページ)が印象深い。

この世界に生きていない人は、こんな世界は科学的にありえないっていうかもしれない。重力や大気の法則に反している、そんな世界は存在し得ない、って。

 そして「でも、どんな世界だってあり得ないんだ、奇跡なんだ」と続く。
 ぼくもそう思う。

 積んでる二冊も楽しみだ。