馬の頭の走り書き

書いているケモノ小説(BL含む)のこと。あるいは、たまに読書日記とかプログラミングとか。

ストーリーあらざるストーリー

なんだかひさびさに。
イタロ・カルヴィーノ『柔かい月』

かなり奔放な空想をする人なんだなあ、という第一印象だった。三部構成になっていて、それぞれの部でコンセプトが少し異なる、ということはつまり、空想の傾向がことなる。

第一部はQfwfq氏という人物が様々な世界の体験を語る。結晶に覆われた世界や、地球が完全だった昔の話、あるときは接触を介して体内の海をたゆたったりといった。この時点でもかなり突飛な想像が繰り広げられている。第二部では細胞になって、細胞分裂するところの身もだえするような『恋』をながーく論じ、結局プリッシラってなんだったのと思わされる。第三部においては、ある一瞬を考察し(まあだいたい)論理的な思がただ書き連ねられていたり、渋滞中の位置に関する考察がひたすら展開されたりしている。極めつけは脱獄不能な砦を知るため、仮定からなるイデアルな砦と実際の砦のひずみを見ていくことから時間や空間、はては第四の壁を越えてしまうようなぶっ飛んだ展開を持つ話。

前にも書いたように(あの時点では第二部まで読んでた)訳のせいか原文なのか読みにくい文章ではあったけれど、空想の突飛さには置いてけぼりを食らったし何度か戻って読み返しもした。後書きには「軽さを感じる」といったような趣旨のことを書いてあったけど、僕にはかなり重かったなあ。そして濃い。

この本は、全順序というわけではないけど、後ろに行くにつれてストーリーが希薄になっていく傾向がある。むしろ、どうなるのか、どうなったのかは自分で考えてねというようなにおいさえする。ただ、どうかしてる指数(今勝手に定義。どうかしてる、頭おかしい、というか狂気を感じる度合い)は高くないし、むしろ文学な感じさえするのに、見える世界が予想の斜め上を行くのでインパクトはかなり強かったように思う。深い意味とか考察はできないけど、この空想力の影響を受けたいなと思った作品だった。ほかの作品も読んでみようかな。とくに、『不在の騎士』とか。