馬の頭の走り書き

書いているケモノ小説(BL含む)のこと。あるいは、たまに読書日記とかプログラミングとか。

今日のお昼ごろまでに書いてた話の冒頭を乗っけてようと思います。

書いただけでまだ推敲もしてなく、プロットの4分の一だけですが、書き終えたのでお蔵入りする前にさらしてヘンなプレッシャーを作っておこうかなあという計略です。ちなみに完成したときにこの記事は消してしまう予定でござい。

有言したときに実行したためしはあまりないのですが、これが死亡フラグにならなければいいなと思います。

ilyaway [temporary]


ぼくの指がさらり、さらりと抜けていく。つややかで他の部分より長い、細長い頭骨を丸く見せようとしているような髪型。毛先がキミの方を向いてい る。ぼくとおんなじの黒くて半ばから折れた耳。黒い東部を割るように、鼻面をつつみ鼻筋、眉間を遠慮がちに通る新雪のような毛。Tシャツの中に吸い込まれ ていく、長い毛足の草原は下にいくにつれてあるいは背中にまわると黒になる。いにしえの羊飼いの血をひいたぼくらは、高さの合っていない肩を並べて座って いる。電灯のついていない部屋の中、明かりを提供してくれるのは目の前でちらつくテレビだけだ。

再び画面が光度を落とし、金属の壁、金属の天井に床。そこにある金属のベッドの上でまぼろしと体を重ねるたくましい男性の姿。音が気配を消したと き、DVDが回り一部が脚光を浴びるようすを耳で感じることができる。キミは何も言わない。ぼくが、キミの横顔に額を近づけても、まったく無言で吸い込ま れるかのように目を画面に向けている。キミの目に映る、彼らの官能的な交合。そしてキミの目は深い青を映すだろう。その表面には。ではキミはその澄んだ鳶 色の目で何を写しているのか。惑星が呼びかけているような、低い唸りが床を伝っている。

キミの肩にぼくが手を回すと、キミは目を固定したままではあるけれども、ぼくの手をそっと包みこんだ。空気が緩やかに動き、やわらかなにおいがぼく の鼻をくすぐった。シャンプーとリンス――キミがいつでもシャワーを浴びられるように買っておいた、キミの一番お気に入りのにおいだとぼくは認識した。鼻 から脳へ伝う信号から、キミがシャンプーを手に取り買い物カゴに入れたときのとびきりの笑顔、初めてベッドを共にした夜に、キミの体から汗のにおいに伴っ てこのにおいがかすかに放たれていたこと、帰って行くとき、キミがふわりとその場ににおいを置いていった風のなんと冷たかったことか、キミと歩いた秋の日 の落ち葉降りしきる夕方、がつぎつぎに思いおこされる。キミのシャンプーのにおいは解釈され、そういうふうに意味づけられている。認識とは、無秩序なもの の中に整然としたなにかを見つける作業をいう。カラフルな画像の上にたとえばテレビの光に薄く照らし出される本棚を見つけ、ぼんやりとして文字の読めない 紙が壁に掛かっているのをを見つけ位置関係からそれはカレンダーであろうと推測し、キミの鼻筋の美しいラインを見いだして胸が高鳴り、かすかに開いたキミ の口から姿を見せる肉色のかわいらしい舌を見て自分の舌と絡ませたくなり、少し無理をして加速した唸るような鼓動を身の内に感じ取る、これら全て認識のも たらすものだ。感覚情報は例外なく、脳で認識という処理によって適切な形に変換されている。言わば、「認識」という殻を通してのみ外界を知ることができる のだ。外界とはあらゆる観測可能な現象のことと定義すると、自分の体の状態――たとえばマズルのラインを見て胸が高鳴るとか――ですら、感覚器官からの一 連の情報を解釈し、既に得ている知識をもって意味づけした結果だと言うことができる。自分が考えていることすら、抽象的であるにせよ、観測対象である以 上、ぼくと外界――つまりぼくとぼく自身あるいはぼく以外――には埋めがたい溝が存在することとなる。ふかくて大きな、認識という名の渓谷だ。要するに、 ぼくが恋い焦がれ胸を震わせていると皮膚感覚や心臓の鼓動その他を通して認識しているキミも大きな間隙のその向こうに笑顔で愛くるしく佇んでいるのだ。

ゆらゆらと漂う大きな大きな知性がおおうつしになる。キミはすぅーっと息を吸い込んで、陶酔しきった心が融け出した深い感嘆の呼気を漏らす。ぼくが 今この瞬間もずっと傍らに認識し続けている、体を預け合って映画に没頭しているキミは、外層だけが触れあっていても認識という高い壁に大きく隔てられてい ると先ほど述べた。方法的懐疑によれば、この世の一切を疑ってかかることが真実にたどり着くための第一歩だという。外界から得られる情報は与えられている もので、与えられているものが信頼できる情報ではないかもしれない――すなわち嘘偽りを与えられている可能性を示唆している。触れあう肩の感触もキミを迎 え入れてやあ元気かいと声をかけたことも先ほど二人でまわし飲みした缶チューハイの味も、虚偽のものかもしれないということだ。そこまで突き詰めて考える と、長い時間を足踏みすることになる。現に、方法的懐疑主義のもとで「ここにペンがある」という命題を示そうとしても示すことができない(あとで修正)。 でもじゃあ、峡谷の向こうに立つキミとはなんだろうか。画面が暗くなり、穏やかな音楽と共に映画を作り上げた人々の名が連なっている。にもかかわらず、白 いはずの壁は未だ青みがかって見え、さらに言うなら波打ち、揺れ動き、ぼくたちを観察しているようにも見える。あの幻想的な青が画面から漏れ出してきて、 部屋に住み着いてしまったかのような錯覚を覚えた。たゆたう青に囲まれたぼくは、キミの腰に手を回す。きゅっと引き寄せると、キミはぼくの胸に鼻筋を合わ せた。片方の腕をキミの背中に回そうと持ち上げたとき、キミはぼくの着ていたシャツのボタンを外した。上からひとつひとつ、誤謬のないよう慎重に言葉を重 ねて議論を行うように、ある命題を証明するためにひとつひとつの前提を明らかにし、それらの妥当性を確かめていくように。半分まで外し、手入れを欠かさ ず、自分自身でもさわり心地のよいふかふかなぼくの胸があらわになったとき、キミは結論を急いだ。すなわち議論を放り投げ、証明をぶん投げて、ぼくの右 の、大胸筋の上に乗った一番上の乳首を味わうように舐めた。胸の奥で、薄紫色の小さな炎がぽっと顔をだした。手は胸板を彫刻のさわり心地を確かめるように 動き、ぼくは紫炎の暖かな熱を楽しみながら、舌を這わせるキミの頭を撫でた。「キミのこと、好きだよ」とぼくは言うと、「分かってる」と言う。

でも、ところで、キミってなんだい?


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まあこんな感じです。書くの事態が遅いので、いつ日の目をちゃと見るのかは謎です。